急性腹症とは
急性腹症(acute abdomen)とは、発症一週間以内の急性発症で、手術などの迅速な対応が必要な腹部疾患群です。急性発症の腹痛は、消化器疾患に由来することが多いですが、心筋梗塞など腹部以外の臓器・器官の異常により生じることもあります。
急性腹症は正式名称ではなく、暫定的につけられる診断名です。原因となる疾患を突き止めた後、その疾患に応じた処置や手術などが必要となります。
診断のポイント
急性腹症の原因は多岐に渡ります。以下に特徴を列挙します。
痛みの発症時期について
発症後、数分以内に突然痛みが現れる疾患から数時間で痛みが現れる疾患など多岐に渡ります。突然発症の原因としては、消化管穿孔、腸捻転、絞扼性イレウス、急性腸間膜動脈閉塞症、尿管結石、大動脈瘤破裂、心筋梗塞などがあります。数時間といったある程度緩徐に発症するものの原因としては、胆嚢炎、結腸憩室炎、急性虫垂炎などがあります。
痛みの部位について
痛みの部位により疾患を推定することが可能ですが、複数部位に及ぶ疾患もあります。
腹部の診察により、疾患を鑑別し、次の検査を迅速に行うことが重要です。
①右上腹部
- 胆嚢炎
- 胆石症
- 胆管炎
- 十二指腸潰瘍
- 肝膿瘍
- Fitz-Hugh-Curtis症候群
など
②心窩部
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 虫垂炎(初期)
- 急性膵炎
- 上腸間膜動脈閉塞症
- 心筋梗塞
- 大動脈解離・破裂
など
③左上腹部
- 食道破裂
- 食道炎
- 胃潰瘍
- 脾破裂
- 脾梗塞
- 虚血性腸炎
- 上腸間膜動脈閉塞症
など
④右下腹部
- 虫垂炎
- 大腸憩室炎
- 炎症性腸疾患
- 過敏性腸症候群
- 胆嚢炎
- 鼡径ヘルニア
- 異所性妊娠
- 子宮内膜症
- 卵巣出血
- 骨盤腹膜炎
- 動脈瘤破裂
- 腸腰筋膿瘍
など
⑤臍下部
- 虫垂炎
- 大腸憩室炎
- 炎症性腸疾患
- 膀胱炎
- 尿管結石症
- 尿閉
- 異所性妊娠
- 子宮内膜症
- 子宮筋腫
- 卵巣茎捻転
など
⑥左下腹部
- 便秘
- ヘルニア嵌頓
- 大腸憩室炎
- 虚血性腸炎
- 大腸悪性腫瘍
- 前立腺炎
- 尿管結石症
- 尿路感染症
- 異所性妊娠
- 子宮内膜症
- 卵巣茎捻転
- 子宮筋腫
- 腸腰筋膿瘍
など
⑦臍周囲
- 急性虫垂炎(初期)
- 小腸の急性閉塞
- 膵炎
- 腸間膜動脈閉塞症
- 腹部大動脈瘤
- 尿膜管遺残症
など
⑧腹部全体
- 大動脈瘤破裂
- 腸間膜動脈閉塞症
- 消化管穿孔(急性汎発性腹膜炎)
- 腸閉塞(絞扼性イレウス)
- 汎発性腹膜炎
- 糖尿病性ケトアシドーシス
- 急性ポルフィリン症
- 中毒(鉛、ヒ素など)
- IgA血管炎
など
急性腹症の検査
急性腹症が疑われる場合には、早急に原因となる疾患を鑑別してそれぞれに適した治療を行っていくことが大切です。
痛みの部位、程度や性質、全身の状態を把握したうえで次のような検査を行います。
①血液検査
炎症の程度や貧血、肝機能、腎機能、電解質(ナトリウムやカリウム)濃度など、全身の状態を評価するために血液検査が必要になります。
炎症性疾患などでは、敗血症の危険もあり、さらに重篤な状態になると呼吸の状態も悪くなることがあり、それらも含めて血液検査で評価することが必要です。
②尿検査
尿路結石や膀胱炎などの疾患が疑われるときには、尿に血液や白血球などが混ざっているかを確認するために尿検査を行います。
③心電図検査
心筋梗塞や狭心症などによる急性腹症が疑われるときには、心電図検査を行います。
④画像検査
緊急性が高い場合には、まず腹部超音波検査やX線検査で重篤な病気の有無の確認を行います。
超音波検査では、胆嚢や肝臓、脾臓などの臓器の状態、腹腔内の出血や腹水の程度、腸管の炎症(虫垂炎)を評価することが可能です。
X線では、消化管穿孔によるfree airの有無や肺炎の状態などを評価します。さらに必要に応じてCT検査が一般的に行われます。特にCT検査は、腹痛などの症状がある場合に有効です。
ただし、腹痛を起こす疾患は数多くあるため、例え検査を行ってもはっきりとした原因が分からない場合もあります。
CT検査が必要な場合は、連携する医療機関を紹介させていただきます。
急性腹症の治療
急性腹症の治療法は原因となる疾患、全身状態により大きく異なります。消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎、心筋梗塞、腹部大動脈解離、肝臓がん破裂、子宮外妊娠など早急な治療をしなければ命を落とす危険が極めて高い疾患の場合は、緊急手術や緊急カテーテル治療、集中治療室での治療などが必要です。
一方で、手術は必要であるものの緊急での治療が必要ではない病気の場合は、それぞれの重症度、全身状態に合わせて待機的な手術やカテーテル治療、内視鏡治療、点滴治療などを行います。ただし、急性腹症については、いずれも入院での加療が望ましいと考えられ、連携する高次医療機関を紹介させていただきます。